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第150話 消えない傷

Author: marimo
last update publish date: 2026-10-18 20:39:51

翌日。

優がひかるに連れられてやって来たのは、都内でも限られた者しか住めないと言われる高級住宅街だった。

広い道路は静まり返り、通り過ぎる車の音さえ、どこか遠く感じられる。

整然と並ぶ邸宅の一つ一つが、そこに住む者の格を物語っていた。

やがて車がゆっくりと減速し、重厚な門の前で止まる。

門扉の奥には、四季を丁寧に閉じ込めたような庭が広がっていた。

剪定された木々。

淡い色の花々。

石畳に落ちる柔らかな影。

そのすべてが、ここに流れる時間の穏やかさを示している。

だが、車を降りた優の胸には、穏やかさとは正反対の緊張があった。

昨日、ひかるから聞いた言葉。

——二十年以上前に、芸能界を追われた女優。

黒川の影響力。

雪城沙羅によって人生を変えられた人間。

その人物が、今日会う相手なのだ。

門を抜け、庭を進む間、優は無意識に背筋を伸ばしていた。

ここはただの邸宅ではない。

何か、目に見えない気配が漂っている。

ひかるが玄関横のインターホンを押す。

静かな電子音のあと、ほどなくして扉が開いた。

現れた女性を見て——。

優は息を呑んだ。

美しい。

年齢は五十代前半のはずだが、肌は滑らかで、首筋
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    翌日。優がひかるに連れられてやって来たのは、都内でも限られた者しか住めないと言われる高級住宅街だった。広い道路は静まり返り、通り過ぎる車の音さえ、どこか遠く感じられる。整然と並ぶ邸宅の一つ一つが、そこに住む者の格を物語っていた。やがて車がゆっくりと減速し、重厚な門の前で止まる。門扉の奥には、四季を丁寧に閉じ込めたような庭が広がっていた。剪定された木々。淡い色の花々。石畳に落ちる柔らかな影。そのすべてが、ここに流れる時間の穏やかさを示している。だが、車を降りた優の胸には、穏やかさとは正反対の緊張があった。昨日、ひかるから聞いた言葉。——二十年以上前に、芸能界を追われた女優。黒川の影響力。雪城沙羅によって人生を変えられた人間。その人物が、今日会う相手なのだ。門を抜け、庭を進む間、優は無意識に背筋を伸ばしていた。ここはただの邸宅ではない。何か、目に見えない気配が漂っている。ひかるが玄関横のインターホンを押す。静かな電子音のあと、ほどなくして扉が開いた。現れた女性を見て——。優は息を呑んだ。美しい。年齢は五十代前半のはずだが、肌は滑らかで、首筋に皺はほとんどない。整った輪郭に、凛とした気品が宿っている。立ち姿には隙がない。ただそこに立っているだけなのに、視線を引き寄せる。まるで長年スポットライトを浴び続けてきた者だけが持つ重力だった。女優と言われても疑わない。いや——。かつて女優だったと言われた方が、むしろ自然だった。「いらっしゃい」穏やかな声が、柔らかく二人を包む。ひかるが一歩前に出る。「優さん。紹介するね。母の——久遠 美月(くどう みづき)です」その瞬間。優の胸に、かすかな違和感が走った。母親。確かに、目元や微笑んだときの口元に、ひかると重なる面影がある。だが、それだけではない。この人には、何かを知っている者だけが持つ雰囲気があった。美月は静かに優を見つめ、やがて微笑んだ。「あなたが藤崎優さん。話は聞いているわ」その一言だけで、どこか見透かされているような感覚がした。リビングに通されると、天井の高い空間に柔らかな光が差し込んでいた。落ち着いた色調の家具が並び、部屋全体が静かな品格に満ちている。ほどなくして紅茶が置かれた。だが、優はカップに手を伸ばすことができなかった。何

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